らぁら

工場の音はライブの音に似ていると思う。
低い声で唸る機械のエンジン音は観客のざわめき、ベルトコンベアの摩擦音は観客の拍手のように思えた。

手元に流れてくる200gの肉を見ながら、私はそんなことを考えていた。
ベルトコンベアからは、およそ200gにカットされた鶏肉が流れてくる。たまにカット仕切れていない鶏肉があるので、それをカットするのが私の仕事だった。

ベルトコンベアを見ていると、妹の“のん”から言われたことを思い出す。
「もうプリパラは無くなったんだよ」
「まだあのアルバイト続けてるの?」
「結婚は?いい人いないの?」
「“神アイドル”っていつまで子供みたいなこと言ってるの」

言葉がベルトコンベアで流されては消えていった。

プリパラは私が高校生になった頃に無くなった。
2014年4月、役員による会社ぐるみでの児童買春、児童ポルノ製造などの組織的犯罪が報道された。これにより、誰もプリパラのことを口にしなくなった。そしてプリパラは無くなった。

この頃から、私は自分が何なのか分からなくなっていた。
私は神アイドルだったんだよね?
みんな友達、みんなアイドルなんだよね?

鶏肉をカットしながら、私は『make it!』を口ずさんでいた。


Make it! ドキドキするとき無敵でしょ

Make up! キラキラ未来で決まりでしょ

夢はもう夢じゃない

誰だって叶えられる

プリパラプリパラダイス


そのプリズムボイスは工場の音に掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった